Patrick Desplats

●Epona/2013(エポナ:シュナン・ブラン、ピノ・ドニス)白 2021年4月リリース
*下記「」内は立野のコメントです。
「このワインは、2014年の12月10日に入港しました。到着して比較的早めに試飲したところ、揮発酸があまりにも高くてとても落胆したことを、今でも鮮明に記憶しています。それは揮発酸の高いワインというより、むしろアルコール分が残るワインビネガーと評する方が適当なくらいでした。
2015年1月にパトリックを訪ねて悲惨な状況を率直に伝えたところ、彼はおもむろに部屋の奥からグリオット時代のエチケットが貼られた 2008年を持って来て抜栓しました。そのワインはまるで海の中を漂っているかのようで、ヨードの風味が溢れる見事な味わいでした。
するとパトリックはしたり顔で、「エポナの2008年と2013年はヴィンテージの特徴や瓶詰め当初の味わいがそっくりだから、この2013年も必ず美味しくなる。だから大丈夫、何の問題もない。」と言うではありませんか。美味くなかった2008年を2015年1月に飲んだら激変しているということは、6年半くらい待つ必要があるのね、と私はその時苦笑するしかなかったのです。
さて、入荷後6年と4ヶ月経過したこのワイン、まさに2015年1月のパトリック宅におけるシーンを想起させられるかのように、大きな欠点を抱えつつも奇跡的としか思えないほどの絶妙なバランスを保つワインへと変貌を遂げております。友人から勧められたとある書籍に、発酵とは神の領域であること、人生には色々な障害がつきものだが多くは時が解決してくれること、それは自然な発酵と似ているものだと書かれていました。このワインを飲むたびに、それを実感する次第です。」
【2014年12月入荷】
入荷時は耳の裏に刺激があたり、汗がじんわりと出るような衝撃を受ける揮発酸の高さが伺えました。果実の風味などはこの揮発酸に抑えられており、探しても感じ取ることさえ難しい状況でしたが、2017年〜2018年頃から徐々に果実味が感じられるように変化しつつあったことを覚えています。それでもなお、揮発酸に支配されているといった印象でしたが、時を重ねるにつれて果実味や熟成由来の複雑性を伴う様々な要素が現れ始めました。最初は全く見えなかった出口が試飲する度にぼんやりと見え始め、それが次第にはっきりとし遂にゴールへ到達、ワインが揮発酸を取り込んだ味わいへと変化しています。
薄濁りのやや濃い黄色。淡いパイナップルやプラム、黄柑橘や早生みかん、青レモンなどの果実香に、ベルヴェンヌやレモングラスなどの爽やかなハーブ香、沈丁花やジャスミンなどの白い花の華やかな香りが加わります。揮発酸は若干喉にあたる印象を受けますが、不思議と角の取れた穏やかな口当たりで、ほどよい甘みとパイナップルやプラムといったエポナらしい果実味と様々な種類の柑橘、熟成の過程で培われた複雑性を引き立てるフレッシュハーブや花々、ドライハーブなどの風味が混ざり合い、東南アジアのイメージが湧くような雰囲気が広がります。それぞれ個性豊かな風味を持つ多種の要素が感じられながら、絶妙なバランスで溶け込んでおり、ついつい飲み進めてしまうような魅力と旨味満載の1本となっています。
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