Jean-Francois Chene – La Coulee d’Ambrosia
*今回のリリースは甘口ワインが主体になっておりますが、本文章では、ジャン・フランソワ・シェネという生産者の背景や、一部のワインの違いについて少し触れたいと思います。
シェネはこれまで幾度となく素晴らしいワインを生み出してきましたが、彼の最大の魅力のひとつは、扱う品種ごとの可能性を常に探求し続ける、いわば研究者のような一面にあります。彼自身、「これはワイン造りに向き合う上で、最も大切な原動力のひとつだった」と語っています。シュナンはサヴァニャンやリースリングと同様に、スパークリングから甘口、そして酸化熟成まで幅広く対応できる稀有な品種です。シェネは当初からその可能性に着目し、スパークリングのEurekaやOrionide、辛口ではPanier de Fruitと酸化熟成のL’O2 Vigne、甘口のトップキュヴェL’Ambroisieを始め、数多くのキュヴェを手掛けました。この探究心はシュナンだけに留まらず、カベルネ・フランやグロロー(一度だけ、実験的に甘口ワインを作ったことがあります)にまで及びます。その代表例が今回のリリースに含まれるL’Odysée 2008です。このワインの詳細については、鎌田の案内文にて記してあります。
* AphroditeとAmazonesについて
●Aphrodite 2010と2009
甘口のベースキュヴェ。案内文でも記述しておりますが、10月中旬以降に貴腐菌が付着し、ぶどうが完熟を超えて過熟の状態で収穫。シェネが手がけるワインの中で最も遅いタイミングで収穫されたものです。過熟状態のぶどうは自然発酵では糖分をアルコールに転換しきれないため、このキュヴェの場合では残糖が170〜250g/Lと必然的に高い値で残ります。味わいの面では、糖分が豊富なため、口中でアルコール感が特に目立たず、3年程度の熟成で美味しく仕上がる傾向にあったとのこと。
*2010年のアルコール度数は13.8%、残糖量が230g/L。2009年はアルコール度数は13.8%、残糖量は170g/L。もし発酵が完了した場合、それぞれのアルコール度数は約27%と約23%になります。
●Amazones 2008
L’O2 VigneとAphroditeの間に収穫された、つまり完熟から過熟の過程で中間状態にあるぶどうを用いたキュヴェ。2005年ヴィンテージに続き、AphroditeやL’O2 Vigneなどのワインよりも大幅に長い熟成期間となる9年を要した理由は、収穫したぶどうの糖度にありました。Aphroditeと比べて糖分が少なく自然発酵がより進みやすい条件にあるため、アルコール度数が必然的に高く仕上がります。そのため、味わい全体のバランスを取るまで9年かかったと話します。シェネは、このワインのアルコール由来の「強さと重厚感」を、ギリシャ神話の女性戦士「アマゾーヌ」にたとえ、ラベルとキュヴェ名に選んだそうです。
*アルコール度数は18%、残糖量は約50~80g/L。もし発酵が完了した場合、アルコール度数は21〜23%になります。ちなみに、過去にリリースした2005年の残糖量は40g/Lでした。
*Boit Sans Soif 2018について
こちらも案内分で一部触れましたが、2018年はべと病が原因で収穫量が例年の約20%まで減少しました。その結果、収穫時期のぶどうの熟し方が普段とは異なり、非常に濃縮され、液体濃度が高くアロマティックに仕上がったとシェネは話しています。抜栓直後は揮発酸や還元香がやや目立っている印象を受けますが、その後数十分の間に桃のような果実味が前面に現れながらワインが猛スピードで調和に向かい、一体感が生まれます。このようなスピード感で良い方向に変化するワインは極めて稀で、これこそ「シェネマジック」と称しても過言ではないほどに興味深い一本です。
*L’O2 Vigne 2014(王冠、5年熟成のロット)について
2022年6月に販売したロットと同じぶどうを使用していますが、当ロットに関してはアルコール発酵が完了しなかった残りの数樽をブレンドして作られたものになります。発酵および熟成の条件は全く同じです。シェネは瓶詰めまでの間に何度か発酵中のワインの澱を足して発酵を促しましたが、このロットに使用されている数樽はどうしても辛口には至らなかったそうです。揮発酸が上昇した理由は、アルコール発酵が続いている途中で乳酸発酵が終了してしまい、その後、液体内の微生物が糖分を揮発酸に変換してしまったことによります。酸化熟成のニュアンスが辛口のロットほど豊かに表れなかった理由については、さまざまな要因が考えられますが、5年間にわたる熟成により揮発酸が柔らかく仕上がっている点は確かです。抜栓後、時間をかけて観察していただくと、残糖と揮発酸が徐々に馴染んでいく過程を楽しんでいただけると思います。
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