
ジャン・マリー&コリーヌ・ボニー(レ・グラン・パン)
パリ出身のジャン=マリーは、長年にわたり脳科学者として研究に携わりながら、2022年にオーヴェルニュ中心部のサン・サンドゥでワインを造りはじめた異色の生産者です。科学者としての専門分野は、動物と人間における「食と脳のつながり」。ワインのキュヴェ名「Magnétique」と「Résonance」は、研究の中心的ツールであるMRIの頭文字に由来しています。
ワインとの出会いは1990年代、20代前半に家族とミシュランの本拠地があるオーヴェルニュ地方の都市、クレールモン・フェランに移住してからのことでした。アルザスのゲヴェルツトラミネール、ブルゴーニュやボルドーなどの一般的なワインから始まり、しばらくの間大きな発見はなく、日常的に嗜む程度でした。しかし2000年代中盤のある日、ジュラ地方のヴァン・ジョーヌ*に出会います。一口飲んだ瞬間に芽生えた感動と好奇心は今でも鮮明に覚えているそうで、その明らかに特徴的な味わいが彼のワインに対する視点を一変させました。さまざまなジュラワインを飲み重ね、いつの日か自分もこんなワインを造る、という夢が芽生えたのです。
*ヴァン・ジョーヌ: ジュラ地方の固有品種サヴァニャンを樽内で最低6年と3ヶ月間、産膜酵母の下、酸化的な環境で熟成させるワイン。このような熟成方法を酸化熟成と呼ぶ。
オーヴェルニュのワイナリーで10シーズン、ブルゴーニュのオリヴィエ・ルフレーヴの元で1シーズン、収穫と醸造に携わりセラーでの作業を学びました。その過程で有機栽培されたぶどうには触れていたものの、自然派ワインの存在については知りませんでした。理想的な土壌構成と環境から生まれるブドウでワインを造ると決めていた彼は、畑ではなく土地を探すことにします。開墾から初収穫まで最低でも6〜7年間要し、その後本格的な生産期を迎えるまで更に約10年間の時間を必要とするプロジェクトを始める覚悟は、並大抵ではないことが伝わってきます。そして2017年、クレールモン・フェランから南へ30分ほど下ったサン・サンドゥに、50年以上休耕地となり除草剤も一切使われていなかった約1.5haの土地を発見しました。調べによると2度の大戦の間、そこには石造りの擁壁とともに棚仕立てでブドウが植えられていたことが判明、四方を森に囲まれ、周辺で散布される農薬や除草剤から守られた美しい環境です。標高約500mの粘土石灰質土壌で、水はけの良い南向きの斜面。有機栽培に理想的な条件が揃っていました。2年かけて開墾作業を行い、2019年にピノ・ノワールとサヴァニャンを合わせて1ha植えました。ピノ・ノワールはオーヴェルニュの主たる品種の一つであり、妻のコリーヌも愛する品種、サヴァニャンはジャン=マリーをこの世界へ導いた品種、自分たちの手でワインを造るという積年の夢がようやくスタートしたのです。そしてこの土地は、偶然にもオーヴェルニュを代表する自然派ドメーヌの一つ、ラルブル・ブランのキュヴェ「Fesses」の区画の真上でした。畑を準備している過程でフレデリック・グナンとキャロットの二人と出会い、すぐに意気投合しました。彼ら独自の哲学から生まれるユニークな味わいを持つワインに感化され、有機栽培に止まらず、醸造まで自然を尊重した造りを目指すことを決断します。畑仕事の基礎はオンラインコースで学び、実践的な指導はラルブル・ブランの二人から受けました。ジャン=マリーとコリーヌは2020年に畑のすぐ近くに引っ越し、以降ラルブル・ブランの二人により近い環境でワイン造りを学びました。2023年ヴィンテージを最後に引退した二人とは現在でも変わらず交流が深く、ドメーヌを引き継いだジュリーとヤコブ・ヴォン・ロゼンの二人とも常に協力し合う素晴らしい関係です。そして2025年春、グラン・パンはようやく初ヴィンテージの2022をリリースしました。
キュヴェ「Magnétique」のピノ・ノワールは、ラルブル・ブランに少し似たフュメ香が特徴的で、繊細ながら芯のある味わいです。キュヴェ「Résonance」のサヴァニャンは品種特有のアロマがあり、少しリッチでありながらしなやかなボディに硬質なミネラルも感じられます。ジュラ地方の北と南の中間が主体ながら、ロワール地方のアンジュエリアのシュナン・ブランを想像させられるような個性が印象的です。いずれも凝縮感と品の良さが共存している様は、二人の情熱と妥協のない丁寧な仕事が液体に転写されたかのようなクオリティです。生産量はごく限られていますが、今後の活躍から目を離せないドメーヌです。
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