ヤニック・メケール
ヤニック・メケールは15年の修行を経て2020年に独立しましたが、これまで「どのようなワインを造りたいのか」「生産者としてどうありたいのか」と、自分に問いかけながら生きてきました。そして4ヴィンテージを経た2024年にようやくワイン生産者として進むべき道が定まり、将来に対して確信が持てたと話します。
2020年から2023年に作られたワイン(弊社の初リリースは2023V)を飲むと、ヴィンテージによる彼の心理状態がおぼろげながら浮かび上がり、やりたかったことは理解できるけれど一貫性のない様子が窺い知れます。その多くに実験的な要素や遊び心が感じられますが、テロワールや品種の特徴が前面的に表現された、シンプルでピュアなワインも少しだけあったりもします。生産者が一般的に嫌う揮発酸や酢酸エチルに対しては比較的に寛容で、必要に応じてそれらを意図的に発生させ個性豊かなバランスを生み出すなど、ヤニックは様々な醸造方法に挑戦してきたことが伝わってきます。彼のワインには生産者としての若さやセンス、そして豊富な知識と経験に裏打ちされた技術が現れており、総じて人間味を感じさせるところに、我々は大きな魅力を感じています。
こうした数多くの試行錯誤を繰り返して、今後は醸造に自分のエゴを持ち込むことなく、「Back to basics」(原点に戻る)をテーマに昔ながらのシンプルな手法に集中していく結論へ至ったと話します。アルザスワインには適さないと感じるジャーは使わず、アルザスフードル(100年以上のものもある)を主体に発酵と熟成を行い、白ぶどうはダイレクトプレスして、できるだけ伝統的な醸造に立ち返ると決めました。
この考えに付随して、これまで所有していた3haの畑全てを2024年の収穫を終えた後に他者へ譲り、もっと魅力的な土壌を持つ2haの新しい畑で2025Vから再出発します。年間生産量はこれまでの2万本から8千本まで減らし、同じく熟成期間をこれまでの8〜12ヶ月から18ヶ月へ、さらにはもっと長くすることで理想に近いワイン造りを目指します。5年にわたり丹念に育ててきた畑を全て手放し、新たなスタートを切ることはとても難しい決断だったと思われますが、この大転換について語っていた彼の表情には一点の曇りもなく、揺るぎない自信に満ち溢れていました。
私たちはこの新たな方向性に深く共感しており、ピュアなスタイルの中に個性が際立つワインが生まれることを期待しています。ヤニックのワイン造りの旅は、第二章が始まったばかりです。今後どのように進化するのか分かりませんが、きっとアルザスを代表する素晴らしい生産者へ成長すると信じています。
「ドメーヌについて」
アルザスで代々続くクラシカルワイナリーに生まれ、2000年代半ばに短期間だけ家業を手伝っていたが、農薬などの大量散布や醸造時の添加物の使用に対して強い違和感を覚え、自然派ワインの世界へ飛び込む。その後約15年間かけて修行を重ね2020年に独立。修行先はフィリップ・パカレ、パトリック・メイヤー、クリスチャン・ビネール、その他ヨーロッパのクラウス・プライジンガーやレコステ、アメリカのパックス・マーレ、オーストラリアのヤウマ、千葉の寺田本家など多岐にわたる。
*自社畑について
2024Vまで:北アルザスのオベルネに合計3ha。土壌は主に粘土石灰質で樹齢は約50年のVV。
●ゲヴェルツトラミネール:1.50ha
●リースリング:0.25ha
●シルヴァネール:0.25ha
●オーセロワ:0.30ha
●ピノグリ:0.30ha
●ピノノワール:0.30ha
2024Vの一部と2025V以降:北アルザスのベルナールヴィイェに合計2ha。土壌は粘土を主体に砂岩とシストが混じる。樹齢は約40〜50年。
●リースリング:0.80ha
●シルヴァネール:0.30ha
●オーセロワ:0.30ha
●ゲヴェルツトラミネール:0.50ha
*ネゴスワインについて(2023Vまで)
主に弊社取扱生産者のLa Ferme de Neuf Chemins(ラ・フェルム・ド・ヌッフ・シュマン)の葡萄を使用。北アルザスのソレンベルグのピノノワールとリースリング。
2020V〜2023Vは自社畑3haとネゴスの2haの葡萄を使ってワインを造ってきたが、2024Vのワインは新たに取得した区画も含めた自社畑の葡萄のみ。
●2024Vまでは樽、アルザスの古いフードル、ジャー、ステンレスタンクなど幅広く使用するが、2025V以降は主に樽とアルザスの古いフードルを使用する予定。
●無濾過、無清澄、亜硫酸を含むあらゆる添加物は不使用(2020Vに実験的にいくつかのタンクや樽に亜硫酸を少量添加して、その他無添加のワインとの違いを検証したことはある)亜硫酸を使用しないことにより毎年1〜2割のワインを失うリスクはあるが、残るワインのクオリティを重視した上での決断。
アペラシオンを取得するつもりはない。